中学生にもなると、多くの生徒は、大人の建前の議論を見抜いていますし、それを分かった上で、教師の前ではいい子のふりをしたりします。
道徳の教科書を読むと、嘘っぽい話にあふれていて、しかし、生徒は容易にそこで求められている「正解」に気づきます。本来は、道徳の授業に、単純な正解などあり得ないはずですが、教材からは、見え見えの「正解」が読み取れることが多いです。そして、生徒はそれを答え、教師は満足する(あるいは、満足したふりをする)。学校ではよくある、お約束の場面です。
プロのもの書きや、高名な人物の文章からの抜粋ならまだいいのですが、学習指導要領に細かく定められている内容項目の要求を満たすために、編集部が独自に書いた文章が頻繁に出てきて、道徳教科書の嘘くささを強化しています。
先日表紙を紹介した日本文教出版の道徳の教科書には、「昔と今を結ぶ糸」という文章があります。ある中学生が修学旅行の行き先について調べているときに、ネットで奈良の新薬師寺にある十二神将像を見つけ、ひどく感銘を受けるという話です。
まず、まだ行ってもいない、ネットでしか見たことのない仏像に中学生が深く感動するという設定に大いに無理があります。さらに、一番感動したのがそこに古い時代の彩色が残っていることだったというのが、何より嘘くさい部分です。
ネットの画像でも分かりますが、実物を見ると、色はほとんど剥げ落ちていて、モノトーンの印象が強い作品です。古い時代の仏像は、様式性が強く、動きもないものが多いですが、十二神将像に関しては、動的でダイナミックな表現がなされており、まずそこに目が行きます。
この文章を書いた人は、おそらく実物を見たことがなかったのでしょう。あるいは、実物を見に行ったが、解説文ばかり読んで、実物には目が行かなかったのかもしれません。この部分は、嘘っぽいどころではなくて、知識だけででっち上げた嘘の話だと私は感じました。
こんな与太話を読ませて、「我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度」を育てよというのです。ほとんど絶句するしかありません。
私には、これは伝統文化をないがしろにする態度にしか見えません。道徳教育の重要性を強調する政治家が、特定の宗教団体と深く結びついていたり、裏金まみれだったりすることと、それは無関係ではない気がします。