西海市立S中図書館

2025年7月21日月曜日

知性の死、図書館の死

参議院議員選挙が終わりました。自民党をはじめ、旧い政党の多くが議席を失い、新興の政党の一部が大幅に議席を増やしました。

中でも、一番注目されたのは、日本人ファーストを掲げた政党です。党首がミニトランプとでも呼べるような人で、自分を批判する人に対しては、そんな奴は極悪人だとでも言わんばかりの勢いで反論していました。政治的な主張は行き当たりばったりで、選挙中や選挙後に目立ったのは、自身の際どい主張について質問されると、そんなことは言っていないと否定するか、それは過去の発言で今は違う考えであるとか、他の党員がよく理解せず言ったことだと言い訳する姿でした。

外国人問題や歴史認識が典型的でしたが、その主張は事実に基づいておらず、稚拙なものに聞こえました。ただ、熱を帯びた話し方だけが印象に残りました。支持者も熱狂的でした。選挙の際によく見られる、動員されてしぶしぶ出てきたおざなりな聴衆とはまったく雰囲気が違います。

たぶん、言っていることが事実かどうかはさして問題ではないのだと思います。その場で思いついた際どい発言が受ければ、それをエスカレートさせ、まずいと指摘されたらたちまち修正する。確たる思想があるわけではないので、変幻自在です。

時代の圧倒的な閉塞感の中で、それを打ち砕いてくれるのではないかという期待が人々を熱狂させるのかもしれません。本人も、それを十分意識していると発言していました。彼がどれだけ危うい主張をしても、支持者の考えは変わらないようです。岩盤のトランプ支持者と同じです。

私の知人で、東大を出て一流企業で働き、その後コンサルタント会社をやっていた人が、選挙前、嬉しそうに、今回の選挙ではこの政党に投票すると言っていました。こんな政党を支持するのは、教養のない層かと思っていましたが、案外そうでもないようです。

感情に突き動かされて行動するのは危ういことだと判断するのが健全な大人の感覚だと思っていましたが、どうもその考えは怪しくなってきました。真実を見極めるのは、感情ではなく知性だと思っていましたが、それも勘違いだったかもしれません。

トランプさんが一期目を務めたときのことです。彼は、就任式に集まった人の数が前任者であるオバマさんのときよりずっと少なかったと報道したメディアを、嘘つきだと非難しました。写真を比べて見ると、明らかにトランプさんのときの方が人出が少なかったですが、その時の大統領の側近は、それはオルターナティブファクト(代替的な事実)だとしてトランプ氏を擁護しました。これは、実に天才的な発言だったと、改めて思います。そもそも嘘なんですが、それは言い方を換えれば事実でもあるという、この一言で、古い知の枠組みは、粉々に砕かれました。

私たちがファクトだと思っていることは、そのように思い込まされているだけのことなのかもしれませんし、私たちの未熟な知性が、そのように間違って認識していたのかもしれません。知性なんてものが、どれだけのものだと言うのでしょうか。ファクトはいくつもあって、いくらでも置き換え可能なものなのかもしれません。

知の殿堂としての図書館なんかにお金を掛けるのは、大いなる無駄遣いかもしれません。人々が求めているのは、胸を突くストーリーで、それが活字で提供される必要はありません。スマホとSNSさえあれば、多くの人々の欲求は十分満たされるでしょう。

知性が死に絶え、図書館も不要になる日が、すぐそこに来ているのかもしれません。私のように、古い枠組みの中でしか思考できない者は、ただ消え去るのみ。

追記
この党首の初めての国会質問がニュースになっていました。一言で言うと、噴飯ものでした。トランプさんの真似をしないのかとか、トランプさんから同一路線を行こうと誘われないのかなどと石破さんに聞いていましたが、この人は、政治や経済や歴史のことが分かっていないだけではなく、人間理解が極めてお粗末だと思いました。

分かりやすく喩えれば、トランプさんはドラえもんに登場するジャイアンです。ジャイアンが、もう一人のジャイアンを求めるはずもありません。自分一人が圧倒的に強いからどんなわがままも通ります。もし誰かが自分の地位を脅かす存在だと思ったら、暴力でそれを叩き潰します。みんなそれが分かっているから、どんなに理不尽でもジャイアンには逆らわないのです。小学生の子どもでも、それくらいのことは分かります。

残念ながら、日本にもEUにもジャイアンに逆らう力はありません。アメリカにとって、唯一の脅威は中国だと思います。おまけに、一気に叩くには強すぎる。だから、トランプさんは、あの手この手で用心深くその力を削ごうとしているように見えます。ロシアは、トランプさんにとってスネ夫くらいの御しやすい相手だと思われていたフシがありますが、実際はもっと狡猾でした。しかし、ロシアのGDPはアメリカの十五分の一ほどで、アメリカの対等の敵にはなり得ません。

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